小笠原諸島の“移動できる飼育施設” ―― オガサワラカワラヒワという鳥 ― この箱が守っているもの【第2回】

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクト

「絶滅危惧種の飼育施設」としてベース&コンパクト3.0をご購入いただいた、NPO法人小笠原自然文化研究所の皆さまへのオンラインインタビューの第2回。今回は、この施設で守られている鳥「オガサワラカワラヒワ」と、絶滅危惧種をめぐるお話を掘り下げます。

この記事は2部構成です。第1回(ここにリンク)では、ベース&コンパクト3.0が現地でどのように選ばれ、どう手を加えられ、どう使われているかを設置例としてご紹介しています。

第1回のコラムはこちら→小笠原諸島の“移動できる飼育施設” ―― 納品から半年後のベース&コンパクト

納品レポートはこちら → アンドコンパクト初納品、小笠原諸島へ

「全部集めても、リュックひとつ分」

以前、鈴木さんから伺って強烈に記憶に残っている言葉がありました。オガサワラカワラヒワは、世界中の個体を全部集めてもリュックひとつに入ってしまうくらいしかいない、という話です。改めて確認させていただきました。

「小鳥なので、体重は大体18gしかないんです。それが地球上に200羽しかいないと言われているので、全部合わせても3.6kgくらい。ギュッとしても、猫1匹分にしかならない。本当に1匹1匹の命が貴重なんです」 ― 鈴木創さん

オガサワラカワラヒワは全長13cmほどの種子食の鳥で、環境省レッドリストでは絶滅危惧IA類(CR)、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定されています。かつては聟島列島・父島列島・母島列島・火山列島に広く分布していましたが、現在繁殖が確認されているのは母島列島の無人属島(向島・姉島・妹島・姪島・平島)と南硫黄島のみ。母島列島側に100羽以下、南硫黄島に約100羽というのが推定値です。

保全の現場では「超絶滅危惧種」という言い方をするそうです。環境省の基準を満たして絶滅危惧種にカテゴライズされる種の中でも、本当に絶滅の淵にいるもの。

「専門家も、それから一般論で考えても、日本の中でもう本当に絶滅寸前の鳥と言っていい鳥です」 ― 鈴木創さん

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクトの内部

トレーラー内部で暮らすオガサワラカワラヒワ。翼の黄色いラインが特徴

なぜ減ってしまったのか ―― 捕食者のいなかった島

減少の主因は、人が持ち込んだ外来のネズミ類による卵や成鳥への捕食圧、そして母島では加えてノネコの影響だと考えられています。ネズミの分布を当てはめると、この現象の多くが説明できてしまうのだそうです。

その背景にあるのが、小笠原という島の成り立ちでした。

「小笠原諸島は、地史的に一度も大陸と繋がったことがなく、しかも成り立ちがそもそも海底火山です。生物ゼロから始まっている島々で、四つ足の捕食者がもともといなかった世界なんですよ。蛇もたどり着けなかった。そういう世界で進化してきた者たちが、人間が住みついてからの変化に耐え切れず、次々と絶滅してきたというのが小笠原の歴史なんです」 ― 鈴木創さん

哺乳類でいたのはコウモリだけ。翼を持つ生き物か、偶然漂着したもの以外はたどり着けなかった。数百万年かけてつくられた特殊な生態系に、数百年前、強い船に乗った人間というインパクトが加わった――そのなかで比較的後半まで生き残ってきたのがオガサワラカワラヒワであり、いまその局面にきている、ということでした。

そして、ここまで数が減ってしまうと、何が起きるのか。

「本来そこまで追い詰められていなければ持ちこたえられるはずのことが、台風一発でクラッシュしてしまう。最後の引き金が、どんなことでも簡単に起こりうる状況まで減ってしまっているんです」 ― 鈴木創さん

第1部で、飼育チームが台風のたびに緊張しておられる理由が、ここにあります。

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクト

絶滅が意味するもの

「絶滅危惧種が本当に絶滅してしまうと、かなりの問題になる」――これも以前、鈴木さんから伺った話でした。改めてお聞きすると、話は3つの層に分かれていました。

■ 1.国の環境行政という側面

小笠原は世界自然遺産に登録されており、登録にあたっては国内法によるプロテクトを世界に示す必要がありました。IUCNの審査を経て「次の世代に残す担保を取っています」という前提で登録された場所です。

「日本の環境行政の一丁目一番地と言える場所、最も手厚いプロテクトを国がかけているはずの場所。そこから鳥類の絶滅を出すというのは、大きな損失です」 ― 鈴木創さん

しかも小笠原では、世界遺産登録後の10年間に、オガサワラシジミという小さな蝶が野生でも飼育下でもほぼ絶滅したとみられる事態が起きています。教科書で語られる「絶滅」が本当に起きるのだということを、島の人たちは間近で見てしまった。だからこそ、シミュレーション通りに手立てを打たなければ本当に滅んでしまうという危機感がある、と。

■ 2.生態系そのものの話

鈴木さんは「小さな商店街」に例えてくださいました。何百万年も続いてきた商店街で、それぞれの店に役割があり、お互いの関係で成り立っている。そこから一軒が抜けると、実は向こうの仕入れもあの人がやっていた、という話になる。ビリヤードのように、みんなが悪い方へ転がっていく。実際に小笠原では、昆虫が減ることで長く共に生きてきた植物の受粉が止まる、といった連鎖が起きているそうです。

■ 3.失われる「情報」

より一般論として、失われる種が持っていた情報――将来、人類にとって役立つ可能性のある物質や仕組み――が永久に失われるという視点。世界ではこの見方も強いのだと教えていただきました。

民間の努力が、絶滅を止めている

取材のなかで、鈴木さんが強調しておられたことがあります。このトレーラーは、多くを民間助成金によって導入されたものだということです。

「民間の努力が絶滅危惧種の保全にかなり大きく機能しているよ、ということをアピールしたいし、同時に官民共同が大きな活路を開けるよということもアピールしないと、全国の絶滅危惧種の取り組みがやっぱり同じような状況にあって、「行政の予算がつきませんでした」でおしまいにしてしまうと、本当に我が国から絶滅を出していくような状況です」 ― 鈴木創さん

アンドコンパクトの1台目が、そのささやかな一端を担っている。取材を通じて、そのことを初めて実感しました。

ベースアンドコンパクトを「絶滅危惧種の飼育施設」としてご利用いただいている小笠原自然文化研究所の皆様とのオンラインインタビューの様子

小笠原自然文化研究所の皆様とのオンラインインタビューの様子

取材を終えて

アンドコンパクトの最初の1台が、絶滅寸前の鳥の飼育施設になる。正直なところ、納品の時点では自分たちが何を届けたのか、まだ実感が持てていませんでした。

半年後の今日、私たちがつくった箱の中で4羽が飛び回り、そのうちの1羽は人の手で卵から育てられた個体だと聞きました。世界中に200羽、全部集めてもリュックひとつ分。その命の、ほんの一端をお預かりしている。

取材の最後、鈴木さんから「次はここをこう改良してもらえたら」という具体的なリクエストまでいただけたことが、何よりありがたいことでした。売って終わりではなく、改良の議論ができる余地があるかどうか。それが2社に絞られた理由だったと伺った以上、応えないわけにはいきません。

台風じゃない時期に、ぜひ。そう言っていただいたので、いつか必ず伺います。

 

取材協力:NPO法人小笠原自然文化研究所 副理事長 鈴木 創さま、特別顧問 神門英夫さま、研究員 堀越宙さま、研究員 飴田洋祐さま

取材:トレーラーハウスデベロップメント株式会社 西川 徹