小笠原諸島の“移動できる飼育施設” ―― 納品から半年後のベース&コンパクト【第1回】

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクト

アンドコンパクト、記念すべき最初の納品先は小笠原諸島でした。用途は当初まったく想定していなかった「絶滅危惧種の飼育施設」。船で24時間以上かけて島へ渡ったあの1台は、いまどう使われているのか。ご購入いただいたNPO法人小笠原自然文化研究所の皆さまに、オンラインでお話を伺いました。

この記事は2部構成です。第1回では、ベース&コンパクト3.0が現地でどのように選ばれ、どう手を加えられ、どう使われているかを設置例としてご紹介します。第2回(ここにリンク)では、この施設で守られている鳥「オガサワラカワラヒワ」と、絶滅危惧種をめぐるお話を掘り下げます。

納品時のレポートはこちら ↓ アンドコンパクト初納品、小笠原諸島へ

なぜ、絶滅危惧種の飼育施設にトレーラーハウスだったのか

きっかけは、飼育施設と飼育者の絶対的な不足でした。飼育して野生に戻していく5年後・10年後の目標に対し、現状の施設数ではまったく間に合わない。行政もこれ以上すぐには増やせない。ならば民間で足すしかない――そうして民間助成金を獲得し、2棟の飼育施設を立ち上げることになったそうです。

1棟目は、地元の大工さんによる屋内施設。東京都の事業で5年間試行錯誤してきた経験から「今ならこれが最もいいのではないか」というプロトタイプをつくるためのものでした。

問題は2棟目です。当初は半屋外の施設を想定されていたのですが、①小型の鳥小屋の中で思いがけず繁殖に成功したこと、②動物園を含め、ここ数年の繁殖成功例がすべて屋内施設だったこと、この2点から昨年5〜6月に「確率の高いほうに賭けよう」と屋内特化へ方向転換。助成金の変更申請まで出し直したうえで、「屋内で、飼育・繁殖にかけられる最小コンパクトなサイズ」という新しいコンセプトに行き着きます。

■ 土地に建物が建てられない

そこに重なったのが、土地の制約でした。村からお借りしている土地には建物が建てられない。コンテナを置くだけでも、電気を引いてしまえば建築物扱いになってしまう。

「次にトレーラーだったら車両なので、電気を引いたとしても、コンセントを抜けばもう車両として動かせるものになる。そこがクリアできたのが大きかったところですね」 ― 飼育ご担当者様

■ 島では、そもそも建てるのが難しい

小笠原では大工さんの高齢化が進み、建築そのものが難しくなってきているという事情もありました。単管を組んで板を張ったような小屋なら作れますが、それでは台風に耐えられない。本当に耐えるものとなるとコンクリートの建物になり、見積額が現実的でなくなる。まして、どんな施設が正解かをまだ試行錯誤している段階です。

「いきなりコンクリートの家を作りたい、というのはできない。そういう意味でも、トレーラーは最初にとっかかりが良かったところですね」 ― 飼育ご担当者様

加えて、小笠原にはもともとトレーラーハウスの文化がありました。明治期に開拓で入った方々と同じ頃、鯨油を求めて捕鯨船で降り立った欧米系の人々の末裔がいまも暮らしており、本土よりもよほど早くからトレーラーハウスを住居やセカンドハウスとして受け入れてきたのだそうです。「トレーラーでいいじゃん」ではなく「トレーラーがいいじゃん」という感覚がある、と伺いました。

■ そして、動かせること

この鳥がいま生き残っているのは母島列島の無人属島と南硫黄島ですが、ライフラインも人手も父島のほうが圧倒的に強い。だから当面は父島で展開せざるを得ない。しかし将来、鳥を戻していく段階になったときは――

「母島にまた一から、土地問題も含めて全部作り直すのか。それを考えたとき、島で繁殖などの成功実績がある施設をそのまま船で持っていけたら、来たその日から超戦力の施設が登場するじゃないですか。無人島の多い小笠原では、これが強いかなと」 ―  鈴木創さん

ベースアンドコンパクトを「絶滅危惧種の飼育施設」としてご利用いただいている小笠原自然文化研究所の皆様とのオンラインインタビューの様子

小笠原自然文化研究所の皆様とのオンラインインタビューの様子

「このトイレのマークがついてるやつ、何ですか?」

導入先の検討は、かなり徹底的にされていました。インターネットで調べるだけでなく、九州・鹿児島の家畜運搬用コンテナ(下がコンテナで上が網カゴになっているもの)まで含めて、めぼしいところには片端から電話をかけられたそうです。

そこから関東の2社に絞られた理由が、私にとっては一番ありがたい言葉でした。

「購入した後のメンテナンスが、そこと直接できそうな会社。トレーラーハウスの多くは、ビルドされたものを輸入して売っているだけ、というところが実は大半だと知りまして。プロトタイプを作りたいという発想からすると、改良の議論ができる余地のあるところじゃないと発展性がないなと思ったんです」 ― 鈴木創さん

そうして栃木工場にお越しいただいたのですが、実はこのとき、ベース&コンパクトはご案内するラインナップに入っていませんでした。他のトレーラーをひと通りご覧いただいた後、「すみません、このトイレのマークがついてるやつ、これ何ですか?」と聞かれたのが始まりです。

鈴木さんいわく「一目惚れ」。ただ、当時はまだ商品化前で、ホームページすら作っていない段階でした。

一目惚れの理由は、形のシンプルさだったのではないか、と皆さん振り返っておられました。小笠原に持っていくことを考えたとき、台風、塩害。下手に拡張して広がった形状だと風を受けてしまうし、中がごちゃごちゃしているものより、シンプルな箱のほうがいい。

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクト

父島に設置されたベース&コンパクト3.0。凹凸の少ないシンプルな形状が、強風下では有利に働く

何もない箱だから、できたこと

ベース&コンパクト3.0は、仕切りのないスケルトン仕様です。もともとトイレ&コンパクト3.0は4部屋に区切られた仕様で、当初は「4部屋あるから4つ取れるんじゃないか」という発想もあったそうですが――

「仕切ってしまうと、逆に可能性が狭まっていたよね。こちらとしても、物を持ってきて試行錯誤をしたかった。どうにでもいじれる状態にしたい、というのはやっぱり最初から意識にありました」 ― 小笠原自然文化研究所の皆さん

私たちの側の事情を申し上げると、仕切りとドアを減らしたことで重量が下がり、その分でエアコンを搭載できるようになった、という設計上の必然もありました。けん引免許不要の車両総重量750kg以内という枠のなかで、何を載せて何を削るか。結果として「何もない箱」にしたことが、こういう使われ方につながったわけです。

そして、その箱の中に施された造作が見事でした。

■ セカンドキャッチ(二重扉)

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクトの内部

入口の内側に組まれた「セカンドキャッチ」。四辺の木材はビスを一切使わず、テンションだけではめ込まれている

 

「動物を飼う場合、絶対にその動物を外に逃がしてはいけないというのが、飼育の基本中の基本なんです。扉をそのまま使うと、人が出入りするときに鳥が逃げてしまう。人が入って外の扉を閉めてから、中の飼育スペースの扉を開ければ絶対に外には逃げない。万が一足元をすり抜けても、そこで捕まえて対処すればいい。動物園の飼育舎は全部その仕様になっています」 ― 神門英夫さん

驚いたのは、その造りです。四辺の外側の木材はビスを一切使っておらず、切り出した木材をテンションをかけてはめ込んでいるだけ。壁に穴を開けたくなかったから、とのことでした。金具のある箇所は少しだけ削って逃がす。叩けば外れるのに、隙間ひとつない。正直、うちの工場で手伝っていただきたいくらいの精度です。

 

■ 換気口と窓の防御

ネズミの侵入を防ぐことと、鳥を逃がさないこと。この2つは、セカンドキャッチと同列にマストな条件だそうです。換気口には内側と外側の両方から金網を取り付け、外側には針金を通して、網がある状態のまま開閉具合を調節できるようにされていました。

窓にも、同じはめ込み方式でトリカルネットが張られています。きっかけは、外からメジロが窓に突っ込んできて脳震盪を起こしたことがあったから。同じことがオガサワラカワラヒワに起きないように、という配慮でした。

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクトの内部

明かり取りの窓と2つの換気口。窓枠には木枠でトリカルネットがはめ込まれている

使ってみて ―― 4羽の“保育園”として

現在、この中には4羽が入っています。別の施設で繁殖したヒナを、運動能力と社会性を身につけさせるために広いケージに移す――その受け皿としての役割です。

「1羽ずつ小さな竹カゴや金カゴにいると、あまり飛び回れない。その意味でも、このトレーラーなら運動機能的にはかなり飛び回れるのでいいと思っています」 ― 飼育ご担当者様

「小さなカゴで個別になると、社会性がなかなか獲得しにくい。初めての幼稚園、保育園、小学校的な場所というイメージで飼育に取り入れました。こういう試み自体、動物園でもいま行われていないんです」 ― 鈴木創さん

そのなかに、特別な1羽がいるそうです。4つの卵から生まれたヒナを親が育て切れず、脱落が見込まれた個体を、孵化1〜2日目から人の手で育て上げたもの。人工育雛が成功した後、その鳥が健全に育つのかという「第二関門」を、いまこの場所で見守っておられるとのことでした。

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクトの内部

床で採餌する個体。手前は餌台

■ 広さ

「トレーラーを見る前から頭の中でイメージしていた大きさですよね。小鳥を飼える大きさは十分あると思いますよ。スズメくらいの鳥を飼うには十分です。おそらく今の大きさですと、来年は繁殖本番に使うことになるんじゃないかと思います」 ― 神門英夫さん

 

■ 明かり取りの窓

飼育上の印象は「全員いい」とのことでした。外からの太陽光はある程度入れたい、塞ぎたくはない。ただし――

「鳥の種類にもよります。すごくびっくりする種類の鳥だと、パニックになったときにぶつかってしまうことがある。オガサワラカワラヒワはどちらかというと、私が飼った中ではおっとりしている鳥なので、この鳥に関しては特に問題はないと思います」 ― 神門英夫さん

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクトの内部

緑の枝葉を入れた直後の内部。止まり木と監視カメラ2台が設置されている

 

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクトの内部

トレーラー内部で暮らすオガサワラカワラヒワ。翼の黄色いラインが特徴

 

■ 空調と断熱 ―― 納品前に一番心配していたこと

社内で最後まで議論していたのが遮熱でした。遮熱フィルムを貼るべきか、という話も出ていたほどです。結果は――

「いまクーラーを入れていて、29℃の弱風くらいで回しているんですけど、断熱が効いているのか、天井を触るのと床を触るので1〜2℃くらいしか違わないんです。この狭い部屋にクーラー1個で、日中も含めて意外と安定的に温度管理ができていて。ここに持ってくるときに一番心配の項目だったので、問題なくてすごく安心したところですね」 ― 鈴木創さん

もしダメだったら、単管で組んだところにさらに屋根を架けることまで考えておられたそうです。ただ屋根を架ければ、今度はその屋根の台風対策が発生する。いまは転倒防止として単管を組んでいるだけで、屋根は架けていない状態です。

「普通に断熱が入っていないものだと、触ると火傷するんじゃないかというくらい熱くなる。それがなくて、すごく安心しました。飼育上、マルを自信を持ってつけられる、という印象をチームで持っている状態ですね」 ― 鈴木創さん

台風と塩害 ―― 離島で使うということ

取材をお願いした日は、ちょうど台風が小笠原に迫っているタイミングでした。私は納品後、なぜか毎回「台風、大丈夫ですか」というメールばかり送ってしまっているのですが、この日もまさに直撃コースです。

「僕らも台風は毎回ドキドキしています。東京でいえば神田を通るのか、多摩川あたりなのか、埼玉に抜けるのか――そのくらいピンポイントで風と雨を、トレーラーの位置まで含めて考えながら、どれだけの養生が必要かを判断しています。中に鳥がいるので、ギリギリ何時まで餌をやるか、台風明けはいつアクセスできるようになるか。ちょうどさっきまで、それを話していたところです」 ― 鈴木創さん

前回の台風のときは、まだ中に鳥は入っていませんでした。つまり今回が、鳥を入れた状態で迎える初めての台風。室内にはカメラも設置されていて、通過後には鳥がどう反応したかも確認できるとのことでした。

ちなみに8月頭の台風では、気象庁の公式記録で風速40m以上。非公式の観測では、母島南部で60mを振り切った場所が何箇所かあったそうです。その数字を聞いて、こちらのほうが余計にドキドキしてしまいました。

設置場所は、横が崖際の山の斜面、谷の中で吹き込みにくい立地。車体は単管で枠組みを組んで養生されています。

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクト

 

■ 錆と塗装は

「正直、まだ1年経っていないので、今の時点で錆が出てくるような段階ではないんですけれど、いまの感じを見ると大丈夫かなとは思っています。直射日光も強いので塗装が剥げるとか、熱で歪むといったこともないですし」 ― 飼育ご担当者様

設置場所が海岸ぎりぎりではなく、やや山寄りであることも関係しているとのことでした。

私たちの側の対策についても触れておきます。アンドコンパクトのシャーシは、鉄の部分に亜鉛メッキのドブ漬け(溶融亜鉛めっき)処理を施しています。塗装と違い、亜鉛の層が鉄そのものを覆って腐食を肩代わりするため、傷がついた箇所でもそこから錆が広がりにくいのが特徴です。海に囲まれ、潮風と強い日射に常時さらされる離島でこそ効いてくる仕様だと考えています。

とはいえ、本当に分かるのは5年、10年使ってみてから――そのとおりだと思います。私たちも、この1台を長く追いかけさせていただくつもりです。

オガヒワ仕様になっていた、アンドコンパクトのロゴ

取材中、写真を見返していて「あれ、なんか変わっている」と気づいた箇所がありました。車体のロゴです。

小笠原自然文化研究所で「絶滅危惧種の飼育施設」として使われている、ベースアンドコンパクト

黄色のビニールテープとピンクの養生テープで“オガヒワ化”されたベース&コンパクトのロゴ

 

「すみません、僕が勝手にやってしまったんですけど、このロゴを見たときに、どうしてもオガヒワにしか見えなくて。黄色はただのビニールテープを3枚くらい重ねて黒が透けないようにして、ピンクの養生テープでくちばしを作りました」 ― 鈴木創さん

緑の体、ピンクのくちばし、翼に入る黒地と黄色のライン。オガサワラカワラヒワの色が、ちょうど3色で収まるのだそうです。

日々の飼育に追われるなかで、わざわざテープを重ねてくちばしまで作ってくださっていた。納品したトレーラーが、現場でこれほど愛着を持って使われている――作り手として、これ以上うれしいことはありません。

これから ―― 母島へ、そして屋外ケージとの連結へ

■ 母島への移動

人員が確保できれば、母島でも飼育を展開したい。その際、既存の施設をそのまま持っていくのか、新しく購入するのか。まだ何も決まっていないとのことですが、「そのうち母島に移動して、向こうの人を育てる場所としてトレーラーが使えないか」という展望は共有されていました。

■ 野生復帰前のリハビリ施設として

いまは繁殖とヒナの成長を促す使い方ですが、育った個体を野外に放して野生個体群を補強する段階になれば、飛ぶ練習をさせるリハビリ施設としての役割も出てきます。

■ 屋外ケージとの連結 ―― 台風のたびの捕獲をなくす

そして、もっとも具体的なリクエストがこれでした。小笠原では屋外ケージも一時期使われていましたが、台風のたびに個体を捕獲して避難させなければならないことが課題になっていたそうです。屋根があっても横から吹きさらしが入り、ケージの中で風が巻いてしまう。逃げ場のない鳥がそのまま死んでしまうケースも十分に考えられる、と。

「鳥の行き来する出入口を1個どこかに作っていただいたハウスがあると、それをガチャッと屋外ケージにつけられる。ご飯は常に室内であげるようにしておけば、必ず室内に戻ってくる習慣をつけられるので、台風のときはそこを遮断して中で過ごさせることもできる。いざとなればトレーラーごと別のところに避難もできる。屋内と屋外を行き来させる施設のハードルが、かなり下がるんですよね」 ― 鈴木創さん

「おかげさまで今のものが手に入ったので、次の具体的な提案・リクエストができるところまで来た感じですね。」 ― 鈴木創さん

■ 飼育施設に限らない可能性

さらに視野を広げると、保全の最前線は山奥や離島――沖縄でいえば本島ではなく大東島や西表といった場所です。そういう現場では、飼育施設に限らず、救急医療施設にも、観測機器を扱うラボにもなりうる。ある日突然そこにラボができる、という価値がある。そんな可能性まで話していただきました。

 

――ここまでが、ベース&コンパクト3.0の設置例としてのご紹介です。

ただ、この施設が何を守っているのかを知らないままでは、なぜここまで細かな造作と、これほどの緊張感が必要なのかが伝わりきらないと思います。後半では、この箱の中にいる鳥「オガサワラカワラヒワ」について、鈴木さんに改めて伺った内容をお届けします。

第2回コラムへ ↓ 小笠原諸島の“移動できる飼育施設” 【第2回】